乖離
もし私が、「私は空を飛べる」って言ったら、どうする?
私はあの感触を知っている。
空を飛ぶ時のあの感触を。
姉はあからさまな嫌悪の表情を浮かべ
今より若い母は、まるで見知らぬ人だった。
もう、ここにはいられない、と
デッキブラシと、細かくたたいた肉の塊を持って
裏手に閉じ込めてあった犬を解き放つ。
犬は嬉しさに跳ね回って転げ回って、肉を頬張り、走り去った。
もうここへは戻れない。
遠くでぐるぐる回る赤いサイレンに焦りながら
精神病院に入れられたら、もう二度と外へは出られないことを知っているから
早く飛ばなきゃ。ついさっきまで飛んでいたのに。飛べるのに
夫も娘も猫も出てこないのに、現実から地続きの夢みたいなものだった。
これが何かひどく重要な夢だったのは確かで、目が覚めて、さーっと音もなく砕けていくのがものすごく私を不安にさせた。