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映像作家・村岡由梨のブログ http://www.yuri-paradox.ecweb.jp/

言葉にならない詩

 幻覚 幻聴 不安傾向 被害妄想 自殺願望 無気力…

  これらと付き合って10年以上になる

  兆候があった期間も含めれば、もっと か

 今でも、自分が発病した瞬間のことを はっきりと覚えている

  あれは中学の卒業式の前日だった

 その夜 私は、頭上に青空が広がる自分の部屋にいた

  私は もう一人の私と 暗くて深い沼の底にいた

  そこは全く無音の世界で 恐ろしいほど静かだった が

  ずっと遠くの方から

  真っ赤に燃えたぎる溶岩のようなものが

  不気味な轟音を響かせながら 

  こちらへ押し寄せてくるような

  そんな 音にならないような音 が

  その時 確かに聞こえていたのだった

  その音は どこかで聞いたことのある音だった

  眠がお腹に出来た頃、生まれて初めて精神科を受診した

  一番目の医者は、会ったその日に別の医者に紹介状を書いた

  二番目の医者は、こう言った

 産むのは 止めた方が良い

  あなたが子供を育てることは、想像以上の困難を伴う

  産むのをあきらめて

  すぐに精神病院に入院しなさい

 その時、私は その言葉に反発した

  そして今、私は その言葉に必死で抗いながら、

  その言葉が現実のものになりつつある現実を

  何とか掻き消そうと躍起になっている

 二度目の診療の予約をキャンセルしてから

  2年半近く経過していた

 元々鬱の人間がクリニックにかかること自体がナンセンスで鬱の人間は「自分の鬱を治そうという気」自体がなかなかおきないものなんじゃないか現に私も「二度目の診療の予約の電話」をする為に受話器を手にするまで二年半の月日を必要とした

 電話に出たクリニックの受付の中年女に、

  診察券を無くしてしまったこと

  前に診察を受けたのは二年以上前であるということ

  今日中に診察を受けたいということ

  この三点を伝えた

 その中年女は、怪訝そうな声でこう言った

  「予約が無いと 診察を受けることは出来ません」

  私は電話を切った

 

  私が「予約の電話」をする為に受話器を手にすることは

  もう二度と無いだろう

 5行上の「怪訝そうな」という記述

  これも私のヒガイモウソウの成せる業か?

  誰のせいだ? 誰を恨めばいい?

  私の 愛すべき/憎むべき 母親のせいか?

  私の 愛すべき/憎むべき 父親のせいか?

  愚か者と気違いばかりが顔を揃える親族のせいか?

  幼い頃の私を弄んだ 無数の男達の性欲のせいか?

  防御することを知らない私の魂を傷付けるにいいだけ傷付けた、

  無数の女達の残忍さのせいか?

  この世の中にこびりついて剥がせない、

  人間が垂れ流し続ける害毒のせいか?

 「こんな風に呪いの言葉をわめきちらしながら死ぬのはみっともない」

  から絶対に嫌だ、とずっと思ってきた

  どうやらそんな醜態を曝け出さずに済みそうだ

  終わりは想像以上にあっけなく 静かだ

  誰が被害者でも 誰が加害者でもない

  そんなことどうでも良くなる

  最後に 言葉なんて出てこない

  とても静かだ

 何をするわけでもなく

  ただ ぼんやりしていたら

  ふと 気が付いた

  私があの日 聞いた轟音

  あれは、眠を産む時にも聞こえていた音だった

  あれは私が産まれた音だったんだ

 そして今 私のお腹の中には

  私が産まれた日と同じ日に産まれる と言われている胎児がいる

  私は私を孕んだのだ

  私は私を抹殺しなくてはならない