映像作家・村岡由梨のブログ http://www.yuri-paradox.ecweb.jp/

私の小鳥

 この書き込みの所々に、私の次回作に関することを書くつもりです。

 今回の妊娠はつわりがひどく、一日中吐いてばかりで、ここ最近は寝たきりの生活が続いていました。

 朝、私の携帯に1件着信が入っているのに夫が気が付き、私が掛け直しました。

 今日の午前3時頃、白文鳥のP子が、入院先のクリニックで息を引き取ったとのことでした。

 私は大粒の涙をこぼしながら、やっとの思いで「昼前までに引き取りに伺います」と伝えました。

 それから仕度をして、野々歩さんと眠と一緒に家を出て駅へ向かいました。

 駅のホームで電車を待っていたら、私の側に立っていた四人組の若い女達が袋菓子を開けて食べ始めました。彼女達の、際限無くクチャクチャと動く口の上下運動を見るのに耐えられなくなって視線を反らすと、今度は、ベンチに座っている小綺麗な格好をした女が、手持ちの紙袋から小さなクロワッサンを出して食べているのが見えました。その女は、どこを見ているのかわからないような目をして、クチャクチャとクロワッサンを食べていました。

 こんなに怒りと憎しみを覚えたのは、久しぶりのことでした。

 私の次回作は、この5人の女達をホームに突き落として殺してしまうような青年についての作品です。

 同時に、快楽殺人を犯してしまう男についても描こうと考えています。彼らはもちろん私自身でもあるので、通例通り私が演じるのですが、ここで面白いのが、私は一児の母であり、このまま行けば数ヶ月後にはもう一人の子の母になる身だということです。つまり、私はもはや、青年や男の視点のみで作品を作ることはしないということです。

 クリニックで白い小箱に入れられたP子の遺体を目にして、私は胸がえぐりとられるような痛みを覚え、号泣しました。

 クリニックを出てすぐの所に焼き鳥屋があって、私がそれを指差して「(小鳥専門のクリニックの側に焼き鳥屋があるなんて)あり得ないよね」と野々歩さんに言うと、野々歩さんが「…(由梨に頼まれて)P子をクリニックに連れて来たついでに、眠とよく(あそこで焼き鳥を買って)食べてたよ」とサラッと言ってのけたので、思わず笑ってしまいました。(ちなみに私自身は肉食はしません)

 

 私のかわいい小鳥が死んでしまいました。 白くて、本当に美しい鳥でした。

 帰り道、あまりにも空が青くて美しいので、小箱の蓋を開けて、空を見せてあげました。

 春の風に羽毛をゆらゆらと揺らすP子の遺体が、とても無垢で美しく思えました。

 

 家に着いてからすぐ、夫が、梅の木の根元に大きな穴を掘ってくれました。

 昔、黒P子の遺体を埋めた所です。反対側の根元には昨夏亡くなった愛犬キースの遺灰が埋めてあります。

 穴を掘っていたら、黒P子が使っていた青いブランコが出て来たので、白P子の白いブランコも一緒に埋めてあげようと思い立ち、夫に持って来てもらいました。

 いよいよ白P子を埋葬しようと遺体を手にとった時、遺体が想像以上に柔らかいことに驚きました。しっかり支えないとダランと垂下がってしまう首を見て、以前、黒P子が亡くなる直前に、突然「グゲエ!」と奇声を発し、小屋から飛び出てこようとして、下の金網に足が引っかかってグロテスクに体がねじれて、その後私の手の上で死んでいった光景を思い出し、一瞬怖くなりました。

 白P子の遺体を穴の底に置き、少し土を被せ、黒P子の青いブランコと白P子の白いブランコを入れて更に土を被せました。徐々に土を被せ、白P子の体がだんだんと見えなくなってくると、急に胸がざわついて、激しく涙が流れました。

 今、これを打ち込んでいて気付いたのですが、P子たちのブランコの色はそれぞれ水色と白で、ちょうど合わせると青空の色になるんですね。彼女達は、私の中の青空にふわふわと浮かぶ憧れのような温かい存在でした。今日の空は本当にきれいな青空でした。 私もいつか無垢で美しい翼を手に入れて、この空を飛んでいきたいと思います。